先生との最初の会話は1996年7月だったかと思います。
私は当時、信州大学工学部の学生(電気電子工学科4年生)で、卒業研究に勤しむ中、10月に実施される大学祭の実行委員という役目を仰せつかっておりました。
役目のなかで大学祭で行われる講演会の企画立案をしており、その講師の選定に苦慮していましたが、思いがけない経緯から、傳田先生をお呼びする運びとなりました。
その際、先生のご自宅に直接お電話し、講演会の講師のお願いをしたところ、大変喜んで快諾していただいたことを今でも覚えております。
1996年10月26日、講義室には200名以上の学生や教職員が集まり、「半導体デバイス:その黎明と成長」と題して傳田先生の講義は始まりました。
この講演会は、専門的な学術講義はなく、戦後のまだ半導体という言葉もない時代において、どのように半導体の原理を学び、どのようにモノづくりをし、どのように世界に通用する技術を磨いていったのかというエンジニアスピリッツを学生に伝える内容でした。
1時間半の講義を終えて、私を含めた多くの学生は、その内容に感銘を受け、モノづくりの素晴らしさと、将来、技術者として世の中で活躍できることへの期待を強く抱いたことを記憶しております。
今思えば、傳田先生は日本の半導体における研究・開発の先駆者であるとともに、さらなる技術の発展のため、若者に技術者たるやを伝えるべく情熱を傾けられた教育者であったと強く感じております。
その後、2年間ほど、この講演会がご縁で幾度か先生とお会いして近況をお話させていただいたりしました。それから先生とお会いする機会がなくなり、そして昨年のご逝去を聞いてとても残念でしかたありません。
しかし、先生のお話を聞くたび、情熱が溢れ出る思いに掻き立てられるのは、昔も今も変わりありません。
当時の傳田先生の講義を思い出しながら、私もエンジニアの一人として邁進していければと思っております。
シチズンファインデバイス株式会社/CITIZEN FINEDEVICE CO.,LTD
マイクロデバイス事業部/Micro Devices Division
製造部 技術3課 技術1G/Engineering Section3 - Group1
佐藤 一孝/Sato Kazutaka